2014/09/15

[登山]南アルプス南部(三伏~荒川~赤石~聖~椹島)の登山記(5~6日め)

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 南アルプス南部に登った時の記録です。0日め~2日めについてはこの記事に、3~4日めについてはこの記事に纏めてあります。

5日め


兎岳避難小屋を出発して聖岳へ登り、聖平へ。天候にめげて下山を決意、その日のうちに椹島へ。
兎岳避難小屋→聖岳→小聖岳→聖平→滝見展望台→聖沢吊橋→出合沢小屋跡→登山口→椹島

兎岳避難小屋~聖平

5日めの朝。兎岳避難小屋の中を掃いて片付けたら出発です。この日も一面のガス、朝は雨がパラついているという生憎の天気でした。が、前に進まないと帰れないので…心を無にして歩いていきます。

 ヤマケイの地図ですと、兎岳~聖岳の間には、危険マークの付いた場所が2箇所程あります。ですが、曇っていたことも相まって、歩いてみた限りだとそこまで危ないと思う場所はなかったです。確かに、赤石岳の辺りからこの稜線を見ると、アップダウンが激しい痩せ尾根に見えますし、実際長野側は「聖岳大崩落地」として大きく崩れています。

 森林限界を越えたり越えなかったりしながら、よく刈られた草木の間を登っていきます。霧で終わりが見えないので、「そろそろだし、これが頂上か…?」などと考えると見事に裏切られます。GPS見てた方が幸せになれる区間です。
 
 時々崩落地の際を登山道が通るので、赤色チャート(ラジオラリア)が鮮やかな暗赤色になっているのが見えたりします。チャートというのはプランクトンの死骸が堆積して出来た岩のことで、それが3000m近くまで地殻変動で運ばれてきたわけですから、中央構造線の近くにいるんだなあと感じさせてくれます。他の山々からすると結構どぎつい色をしていて、確かに赤石山脈だなあと納得してしまいました。

 ハイマツ帯から砂礫地のようになってしばらくすると、突如山頂に出ました。あれほどまだかまだかと思っていたのに、最後は呆気なかったです。アルプス最南端の3000m峰で、ちょっと空も明るかったのですが、相変わらずのガスで何も見えず。

 奥聖岳は時間の都合もあってパス。下山のために聖平小屋へと進んでいきます。聖岳からの大斜面は結構急で、登りたくはないなあと思わせてくれる道です。しばらくすると平坦な稜線歩きとなり、小聖岳を通過すると、またどんどん下っていきます。そして灌木帯に戻ってくると、道は雨に依ってぬかるんでいるようになってきます。
 この辺りの登山道は、時々単調な草原のような場所に出るくらいで、鹿害の痕なのかなあと考えてしまいました。

 結構長い時間歩くと、薊畑というところに付きます。と言っても、これも鹿害のせいなのか、名前は「薊」畑ですがあまりアザミはなかった気がします。ここに、西沢渡方向への分岐があったように思います。

 そこからしばらくすると、突然開けた場所に出ました。ここが聖平。聖沢の下山ルートか、上河内岳・茶臼岳方向に進むかを選ばないといけません。無論全員一致で下山することに。木道が整備されていて歩きやすかったです。

 小屋が見えてくると、左側に鹿がいました。目線が合いましたが、自分よりも大きく見えたので、早歩きで横を通りすぎました。聖平小屋で一旦休憩することにしましたが、小屋の入口を見るとなんとフルーツポンチが。お金取られないの…とびくびくしながら頂きました。しばらく食材の豊富な食べ物とは無縁だったので、それこそ身に沁みるような美味しさでした。

 さて、この小屋ではカレーと中華丼が500円で食べられます。他と比べると安すぎですね。勿論食べようということになり、食堂に上がらせて貰いました。小屋の人が「勿論大盛だよね?」「フルーツポンチ実は余ってるんだよ、食べないなんてことは…ないよね?」みたいな感じで、色々とたくさん食べさせてくれたのが嬉しかったです。その御蔭で、山で今迄にないくらいお腹いっぱいになってしまいました。(実際、この後下山まで何も食べずに過ごせた。)

 他に聖平小屋のいいところ(?、驚いたこと)としては、なんとトイレが洋式水洗だったこと。こんな所あるんかい!とツッコまずにはいられないほど、清潔感あふれるトイレでしたね。電波が通じないのが玉に瑕なんですが、今度行くなら是非泊まってみたい場所です。

聖平~椹島

休憩でリフレッシュしたら、下山し始めます。ここからは暫く沢沿いに歩いていきます。あまり高度も変わらないので、時間を縮めようと頑張ってみましたけど、ぬかるみに苦戦したりして、結局ほとんどコースタイム通りでした…。

 同じような樹林帯を飽きるほど見て、少しだけ登ると「滝見展望台」というところに出ます。慰霊碑がありました。この場所から聖沢までは、地形図だと100mくらいの高度差があるのですが、「展望台」ですのでそれを岩の上から覗けるという、なんとも高度恐怖症殺しの場所でした。

 更にトラバース道を延々と歩き、大きな沢を跨ぎます。聖沢はもう遙か下に行ってしまい、「吊橋までこの高低差を下るのか…」と、後々のことを考えて段々憂鬱になってきます。乗越という場所で尾根を跨ぐと、営林小屋跡までは緩い下りになります。そしてそこを過ぎると、聖沢吊橋まで、250m以上の怒濤の下りとなります。

 聖沢吊橋は大きな吊橋で、土台もコンクリートでしっかりと造られていました。あんな山奥に誰が運んだんだ…と言いたくなります。
 実は聖沢の登山道は他にも橋が幾つかあって、どれも頑丈そうな金属製のものでした。果たして採算取れるのか勘繰ってしまうくらいに、よく整備されています。

 聖沢からはまた沢の高巻きが始まります。ここに限らず、沢の高巻きは結構危ない場所の一つだと思うのですが(支流の沢に落ちると、多分本沢まで止まらなさそう。の割に数十m程の差がある)、出合沢小屋までのトラバースはずっと手すりが付いていて、あまり緊張せず歩くことが出来ました。

 出合沢小屋には道標があって、古い瓶などが転がっていました。ここを過ぎると、林道までまた200m程度の急な下りです。木々の隙間から赤石ダムのエメラルドグリーンが見えてくるようになると、少しして林道に出ました。

 さて、林道ではあるのですが、ここを下界と思っていると大変なことになります。なにせ静岡県の最奥部ですから、バスですら井川まで2時間以上かかる場所です。その日の下山は無理で、椹島へ行くことにしました。

 林道歩きは…特にコメントすることはないです。赤石沢と東沢がとても近いところを流れている牛首峠の地形が面白かったのと、椹島の近くで雨に降られて「とことんツイてないな…」と思ったくらい。

 椹島は、何棟も建物が並ぶ、「一見すると」集落みたいな場所です。車も何台か止まっていますし、建物も下界のように綺麗です。山奥なのに。流石は東海フォレストの拠点だなあといった気がします。

 テント場は一人\1,000と少しお高めでしたが、なんとお風呂に入れます。建物の中にはテレビやPC、ソファなどもあって、山の上からしたらすこぶる快適でした。他にも自炊場や自販機まであって、なんだここは…となってしまいます。テント泊なのに。テント泊なのに。テントサイトは芝生の上なので、久々に柔らかい所で寝れると思った記憶があります。
 唯一の問題は、電波が全く入らないというところですね。

まとめ


  • 森林限界より下では、雨が降ると道はぬかるむ。
  • 聖平小屋はフルーツポンチが食べられる(1人1杯)。カレーと中華丼が大盛り無料で500円。トイレは洋式水洗。docomoの電波は入らない。
  • 西沢渡・便ヶ島~聖平の登山道は蛭が出る、らしい。
  • 聖沢登山道はよく整備されている。ただ、上の方のトラバースでは、ところどころ支えの木が腐りかけてる場所とかがある。
  • 椹島は、テント泊でもお風呂が入れて、自販機やレストハウスがあり、1台だけだがノートPCでインターネットも見れる。でもdocomoの電波は入らない。衛星通信の公衆電話はあるけど、50秒200円とかそんな感じで高い。

兎岳避難小屋の道標あたりから見た小屋
時々こんなところを行きます。
真っ赤なラジオラリア盤岩
ポスターにも載っている、ラジオラリア露岩地です。
こんな所を延々と登っていきます。
そこらの石
頂上はもうそろそろのはずですが、眺めが無いので全く分からなかったです。
山頂に着きました。展望ゼロ。
隣にこのタイプの道標もありました。
聖岳からの下りで、一瞬迷った場所。右が正解。
切れ落ちているんでしょうかね。よく見えませんでした。
小聖岳です。山頂標がありましたが、文字はかすれてほとんど読み取れませんでした。
薊畑までは、時々こういった場所を通り抜けます。鹿害でこのような植生となったのでしょうか。
縦横間違えてますが、鹿の嫌いなトリカブトです。食べると人間も死んじゃうんですよね。
薊畑にあった西沢渡への分岐。崖っぷちに立っている。
薊畑の道標
ここは薊畑です。これが無かったら分からなかった。
聖平。
聖平の分岐を示す道標。
このような木道が整備されています。
木道
小屋のすぐ近くにいた鹿。自然の中で鹿を見るのは人生3回めかな。こいつを担いで帰れれば、ジビエが食べられますね。
聖平小屋で食べた中華丼。うずらの卵がとても美味しい。実はこの小屋には冷蔵庫があるらしい。
聖平小屋に貼ってあった時刻表
便ヶ島への登山道には蛭がいます。小屋の人の話では、蛭のいる場所にザックを置くと、背負った時に体に付いてくるらしい。
カレー500円。南アルプスの小屋は良心的な価格帯ですね…(ペットボトル300円、カロリーメイト200円とか)
これが聖平小屋です。
小屋の前にあった、聖平植物復元活動の説明板
暫くはこんな道を歩きます。トリカブトだらけでした。
耐荷重400kgの金属の橋も、こんな感じで盛大に曲がってました。
おそらく滝見展望台から下を覗いてみたところ。むっちゃ深くて怖い。
踏みたくない木道
聖沢吊橋ではないけど、こんな立派な吊橋が山の中にいくつかあった。
営林小屋跡か。
出合沢小屋跡
出合沢小屋跡の道標
赤石ダムのエメラルドグリーンが見えてきました。
聖沢登山口です。
椹島はこっち。
畑薙第一ダム方向。歩くと何時間もかかるけど。
こういう桟道のような道を見ると、なぜかワクワクしてしまいます。(発電所か何かの管理道です。)
牛首峠近くにある、赤石沢川の看板。
歩いて行くなら、この看板から登山道を抜けたほうが早いのかもしれない。
椹島にも、おなじみの道標があった。
レストハウスかな?
椹島ロッジ別館。写真の建物が受付になっている。
こんな感じの建物がいくつか並んでいた。
南アルプスの地形についての説明板。これを見てから登ったほうが、いろいろと楽しいと思う。
今回見れたのは、牛首峠と赤崩くらいかな。
これも地質学的特徴の案内板。
兎岳~聖岳のラジオラリア盤岩露岩帯の写真。ちょうど上の写真と同じ場所だった。

6日め

この日は下山です。「狭い日本なのに、街に出るまでこんなに時間が掛かるなんて」と、自分たちが山奥にいたことを分からされます。


 朝起きると、送迎バスに乗り込みます。自分たちが昨日何十分もかけて歩いたところを、バスは15分位で走り抜けてしまいます…。バスはひたすら東俣林道を下りていくのですが、いつまでたっても「大井川とそれを囲む山」という風景は変わりません。これが1時間続きました…。右側に畑薙大吊橋が見えると、すぐに畑薙第一ダム湖が出てきます。そうするとしばらくして沼平ゲート、ダム堰上を通り、畑薙第一ダム駐車場に着きます。バスで1時間ですから、歩いて帰るのは無謀に近いですね、テント泊にはなかなかつらい山域だと思います(椹島、二軒小屋を使うのが)。

 さて、実はここからの交通手段を考えていませんでした。というのも、東京に帰らねばならないので、まずは大井川鉄道の井川駅にたどり着くべきだと考えていました。しかし、井川までのバスは白樺荘止まりとなってしまったので、バスが無いんです。この辺りで電波が入るようになったので、タクシーを呼ぼうかとなったのですが、タクシーは静岡市街から来るとのこと。なので、採算の問題から、静岡市街まで行かないなら来ないといいます。しょうが無いので、バスの出ている赤石温泉白樺荘まで歩くことにしました。

 白樺荘は綺麗なところでしたが、バスまで3時間待ちは、暇すぎて辛かったです。休憩室で沈黙の艦隊読んでました。あと、マムシの干物とか売ってました。

 バスは9人乗り、HPだと「町民優先」をでかでかと書いていたので、乗れるかおっかなびっくりでしたが、白樺荘で乗車した5人以外に乗ってくることはなかったです。それに、バスの中には「人数が多い時は田代から増便を出すので、10人以上のグループは連絡ください」との但し書きがありました。

 途中自衛隊の車とバイクが、何台も畑薙第一ダム方向に向かっていったんですが、何かあったんでしょうかね。

 井川からは、5分の乗り継ぎで大井川鉄道井川線に乗ります。アプト式のトロッコ風列車なので、観光客が大勢乗っていました。私も車窓を最初は楽しんでいたんですが、あのディーゼル機関車の轟音と、変わらない山奥の風景にだんだん飽きが来てしまいました。今考えると、静岡までタクシーのほうが良かった気もします。

 2時間電車を乗り続けて、やっと千頭というところに着きます。ここもまだコンビニのない町なのですが、SL列車の終着駅だけあって、家族連れで賑わっていました。しかし、問題は千頭から先にもあって、この区間は列車が昼間は3時間に1本とかなのです。しかも、浜松に近い金谷まで行ってしまうので、東京に帰るためには少し不都合です。
 ちょうど駅前のタクシーを見ると、静岡駅まで1万円程度と書かれていたので、ここからはタクシーで帰ることにしました。実はこの時お金の持ち合わせが無くて、途中コンビニに寄って貰って下ろしてくるという、なんとも恥ずかしいことをしてしまいましたが…。

 タクシーもずっと山の中を走ってきましたが、新東名を超え静岡の市街地まで来ると、一気に都会になりました。運転手さんは、映画館がもう1つもないんだと嘆いていましたが、やっぱり都会です。コンビニとかも沢山ありますし。そうそう、静岡は横断歩道がふじさんの歌なんですね。

 その後静岡でとんかつを食べ、青春18きっぷで帰りました。

まとめ

  • 椹島はとても山奥。畑薙第一ダムも山奥。
  • 畑薙第一ダム~椹島・二軒小屋は小屋宿泊者のみが乗れるバスが有る。しかし、畑薙第一ダム~聖岳登山口はまた別のところのバスが有ったような。
  • 畑薙第一ダム~白樺荘間はバスがない。しずてつシャトルバスによる畑薙第一ダム~静岡駅の季節運行バスが、1日1本だけある。
  • 白樺荘~井川は、バスが1日2本。9人乗り、町民優先。でも、増便を出してくれそうかもしれない。
  • タクシーを井川・畑薙第一ダムなどに呼ぶ場合、静岡市街地までじゃないと来てくれない。
  • 大井川鉄道は、井川線に至っては5本/dayとかで、あまり早いものでもないので、よく考えて乗るべき
  • 多分、畑薙第一ダム~静岡駅をタクシーで行くのが、時間的に一番いい。もっとも、マイカーで来ればそれが最良だけれど。
両側を山に囲まれた大井川
多分赤石ダム
こんな感じの所を林道が走っています。
赤崩?
崩れて下にたまった土砂
白樺荘にあった、井川の歴史文化を紹介するパネル。日本のこういう伝統的なお祭りって、どこも旧盆目掛けてやるから、見て回るのにも限界がありそう。
白樺荘から見た大井川上流。上の方は雲がかかって何も見えない。
てしゃまんくんというバスが来た。因みに、リースした車両で、運行はタクシー会社が委託を受けてた、はず。
バスに乗り換えても、暫くは深い山の中を走る。
椹島からバスで2時間、最初の集落がこの「小河内」。右側には落ちた吊橋が残っている。好きな人は好きそう。
集落内は茶畑だった。
小河内バス停
コンビニにまだ取って代わられていない雑貨屋
診療所前から見た井川町内。奥に見えるのは小学校。生徒数人らしい。
大井川鉄道井川線
細い10mの客車がつながっている。おもちゃにありそうなミニ列車といった感じ。
井川ダム。広大な井川湖を堰き止めている。
こっちは奥泉ダム。色が…。
深い渓谷の中を走っていきます。この辺りは、井川へとアクセスする静岡県道60号(南アルプス公園線)と離れているので、細い林道が線路に平行している以外、なにもないんですよね。
関の沢橋梁。「私鉄で」日本一の高さなんだけど、日本一がめっちゃ強調されていた。
相変わらず山の中
周りに何もないことで有名な尾盛駅。それでも列車は停まった。
アクセスする道もないです。
山の中
尾盛~接阻峡温泉にある、廃道となった遊歩道の吊橋。意外ととしっかりしているようにみえる。
接阻峡温泉
接阻峡温泉駅
列車はがたごとと進んでいきます。

静岡ならではの眺め。
長島ダムか?右側に、大井川鉄道の旧線のガーター橋などが見える。 
アプト式機関車の連結待ち。ここは観光客が大勢いた。
下の方に来ると、大井川も川幅が広くなってきます。
千頭駅、大勢の家族連れで賑わっている。個人的には、後ろの近鉄っぽい斜体がぼろすぎて哀愁誘ってるなあ…と思いましたけど。

全体のまとめ

  • 雨と霧にまみれた山行だった。
  • 小屋は誠にいいものである(ので、もうテントはいいかなあ…)。
  • 南アルプス南部は、本当にアクセスが悪い。小屋に泊まらないと椹島・二軒小屋~畑薙第一ダムのバスには乗れないし。もう満足したから行きたくない。
  • もしかしたら、以下の文献が参考になるかも。

悪沢岳 | 山岳通話エリア状況マップ http://nagano.docomo-de.net/area/sp/m0/ma/a0807.html
中部森林管理局/「平成19年度南アルプスの保護林におけるシカ被害調査」について http://www.rinya.maff.go.jp/chubu/policy/business/conservation/sika_higai_2008/
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