欲しかったスペック:
- DDSが出力できる周波数領域を全てカバーする
- アンプの出力インピーダンスZo =< 50Ω
- 単電源
- 増幅率Av = +1 ~ +3程度(DDSの出力が1Vp-p弱なので、単電源でよくある+3.3Vならよくて3倍程度が限界ですし)
オペアンプは、Texas Instruments社かAnalog Devices社のを探していました。それで、選んだ経緯はあまり覚えていませんが、TIのOPA830を使うことにしました。このオペアンプは、高速な電「圧」帰還オペアンプで、ゲインG=+2で110MHzの帯域が取れます。
回路・パターン
!後述のように、以下に示した回路で作成しても、多分上手く動きません。!回路はデータシート p.19 Figure.1にある非反転増幅回路そのままです。出力のカップリングコンデンサ(C4)を取り付けた程度でしょうか。部品についても同様ですが、以下のようにしました。
- 抵抗・コンデンサは1608サイズ
- 中点電位(Vcom)を作る時は、オペアンプによるバッファを挟む
- このオペアンプは、1回路入りの小さいものにする(2回路入りだと余って勿体無い。SOT-23とかでコンパクトにしたかった)
- 各部分ごとに、電源を切り離してデバッグしやすいように、Vccとの間にジャンパを入れる
負荷抵抗の配置の仕方だけ、まだよく理解していません。順当に行くと、(R1 + R2)//R3 ≒ 136Ωになるのですが(データシートにもそう記載がある)、分かってなくてR7を付けてしまいました。
OPA830を用いたアンプの回路図。上側がAv = +2のアンプ部分、下側は中点電圧(Vcom)を作成する部分。 |
OPA830アンプのパターン。 |
OPA830アンプのパターン(表面のみ)。縞の部分はtRestrictで、ベタパターンを配置しないようにしている。 |
OPA830アンプのパターン(裏面のみ)。縞の部分はbRestrictで、上と同様ベタアース禁止部分。 |
実際に作った
さて、作った基板のガーバーデータをElecrowに投げたのが8/23で、こないだ基板が届きました。早速RS Componentsで買った部品を実装してみたところ、以下の問題点がありました。
- ボルテージフォロア部分が発振する
- Vcc = +3.3Vの時、+2.3V程度までしか出力されない
C7が実装されているときの、Vrefの出力波形 |
この原因には心当たりがあって、そもそも当初から「オペアンプの出力に付いている0.1μFが、容量性負荷になるのなら、(オペアンプは)ドライブするのが大変そうだけど大丈夫なんだろうか?」と思っていました。なので当該コンデンサを外してみたのですが、OPA830にVrefを供給すると、今度は以下のような波形になってしまいました。
C7、C8が未実装の時の、オペアンプの出力波形(下)。上はOPA830の出力波形。電圧レンジに注意。 |
こっちには思い当たることがありません。仕方が無いので、当座しのぎとして、オペアンプを使わず(SJ4をopen)、R8・R9によって分圧したものを、そのままジャンパ線でVrefに繋ぎました。こうすると、特にVrefが揺れることもなく、動作するようになりました…。発振防止のR10に、10Ωや100Ωを付けても改善せず、LM321の問題なのか未だによく分かっていません。
オペアンプ(LM321)を通さない時の、アンプの入力/出力波形は以下のような感じです。
アンプが正常に動作しているであろう時の、入力と出力。測定はACモード、負荷51Ω。CH1に2MHz DDS出力を入力し、CH2がアンプの出力。 |
2つめの問題について。データシート p.5を見ると、Vcc = +3V、G = +5、負荷抵抗R = 150Ω(to Vcom)のときに、2.7V程度までは出ることが分かります。今回はG = +2ですが、Vcc = +3.3Vなのに2.3Vまでしか出ないのは、あまり納得がいかない結果です。とりあえずはVcc = +5Vで動作させてますが、これもちょっと謎な現象です…。
OPA830アンプで、Vcc = +3Vの際に、860mVp-p程度の正弦波を入力した時の出力波形 |
この回路をTina-tiでシミュレーションした結果
(14/10/23)この上側が切れる問題ですが、Texas InstrumentsのシミュレータTina-tiでも確認できました。なので、入力電圧の範囲を越えてしまってるんじゃないかなあと思っています。(データシート見てても、あまりこれだというのが見つからないのですが…。p.5のMost Positive Input Voltageでしょうか?)
先に結論を書くと、データシートでは+5Vの場合今回の回路の例が示されていますが、+3Vの場合はFigure.2の方を使うべきみたいです。データシートがそう言ってるし、シミュレーションでも後者のほうはちゃんと増幅できました。
まず、Tina-tiでデータシート p.19 Figure.1 "AC-Coupled, G = +2, +5V Single-Supply Specification and Test Circuit"の回路をシミュレーションしてみました。
OPA830のデータシート p.19 Figure.1を模した回路。 |
OPA830のデータシート p.19 Figure.1の回路の過渡応答(f_in = 2MHz、Vcc = 5V)。 |
OPA830のデータシート p.19 Figure.1の回路のAC特性 |
OPA830のデータシート p.19 Figure.1の回路の過渡応答(f_in = 2MHz、Vcc = 3.3V)。 |
次に、Tina-tiでデータシート p.19 Figure.2 "AC-Coupled, G = +2, +3V Single-Supply Specification and Test Circuit"の回路もシミュレーションしてみました。
データシート p.19 Figure.2を模した回路。 |
OPA830のデータシートp.19 Figure.2の回路の入出力過渡応答 |
OPA830のデータシート p.19 Figure.2の回路のAC特性 |
・-3dBになるのは123MHz程度
・100Hz以下の減衰は、入出力のRCの影響か。
OPA830のデータシート p.19 Figure.2の回路のノイズ特性。 |
どうせならTina-tiでVref生成部(LM321)もシミュレートしようかと思ったのですが、LM321のTina-ti用マクロモデルは無いようです。その代わり、LM324のモデルがあったので、そっちを使うことにしました(LM321は、LM324の1回路版です)。
シミュレーションだと、ボルテージ・フォロワ部だけだとC無しでも正常動作するようです。出力にCがあった時の発振現象は確認できませんでした。
次に、全体の回路をシミュレーションしてみました。Vcc=+5VでFigure.1の方の回路です。
全体の回路もTina-tiでシミュレーションしてみた。 |
全体の回路の過渡応答のシミュレーション結果。入力は2MHz 1Vp-p。Vrefが揺れているのが分かる。 |
VrefにCを追加した時のシミュレーション結果 |
シミュレーションは便利ですね…最初からやっておけばよかったです…。
課題
このアンプを改善するとしたら、- 出力にステップ アッテネータ(減衰器)、電源にインジゲータを付ける。
- 入力部のSMAコネクタへの信号線のパターンの、配置を直す
- 信号線は、左から右へ、なるべく直線的で一方向に流れるよう配置を直す。
- 入出力部に保護回路を入れる。
参考文献
[1] 岡村廸夫, "定本 OPアンプ回路の設計―再現性を重視した設計の基礎から応用まで", CQ出版社,[2] 山内淳, "位相・ゲイン余裕の小さいオペアンプの使用の注意点", Texas Instruments, Application note(JAJA130)
OPA830を例にして、unity gain(G = +1)の時の発振防止法が書かれています。
[3] John Ardizzoni, "高速プリント回路基板 レイアウトの実務ガイド", アナログデバイセス ニュースレター, Volume 39, September 2005